翼無き者たちの行方−終わりの始まり2−豪奢なパーティだった。 神羅家の邸宅と比べても遜色ない屋敷で開かれたその会に、ルーファウスは父と共に出席していた。 副社長という肩書きもある今、有力な取引先との会合には必ず同席する。 それは、ルーファウスが名実ともに神羅の跡取りであることを明示するための行為だった。 どこでもルーファウスは注目の的だった。 まだ少年のあどけなさを残していながら、立ち居振る舞いはもう一人前だ。 世間話から込み入った仕事の話題まで、そつなくこなす。 なによりその華やかな容姿は、人目を引かずにはおかない。 プレジデント神羅が自慢げに見せびらかして歩くだけのことはあると、列席した者は秘かにため息をついた。 「初めまして。ルーファウス神羅」 そう言って近づいてきたのは、この館の主、ミッドガル最大手の銀行頭取の妻だ。 まだ十分に若く、高価なドレスと宝石がその身体を飾っている。 「あなたとお近づきになりたいわ」 差し出された手を、ルーファウスは取った。 連れ込まれた部屋はかなり広かったが、真ん中にあるのは明らかにベッドで、そこがどういう用途で使われる場所なのかルーファウスにもすぐにわかった。 そういうことがある、というのは知識としてはなんとなくわかっていた。 誘われてついてきた以上、断れないのだということも。 それは女性に恥をかかせることになるのだから。 「いらして。ルーファウス神羅」 手を引かれてベッドへいざなわれた。 白い細い腕が絡みついてきて、赤い唇が押しつけられた。 「初めて?」 ルーファウスの服を脱がせながら彼女は笑う。 ルーファウスは曖昧な微笑を浮かべただけで質問には答えなかった。 「じゃあ、乾杯しましょう」 言いながらベッドサイドに用意されていたワインを差し出す。 ルーファウスはグラスを干す。 彼女は一口口にすると、濡れた唇を舐め、そのまま片手で引き出したルーファウスのものを口に含んだ。 言葉にはしなかったが、実際ルーファウスにとってそれは初めての性体験だった。 しかしいつかこういう形で経験するのだろうと、ルーファウスの予測していたものとそれはほとんど合致していたから、戸惑いはなかった。 最初から遊びと割り切り、一度限りの関係で満足してくれる女性。 決して神羅夫人になりたいといった問題を起こさない相手。 ルーファウスと同じ階級に属し同じ常識を共有する婦人達の誰かから、必ずいつか誘いがかかるはずだった。おそらくそれは父も承知の上で。 もちろん初めてなのだから、上手くやれるはずもない。 だが、相手はそんな『初々しい若者』に価値を見いだしているのだから問題はないのだ。 ルーファウスはリードされるまま行為を続けていたのだが、ふと、違和感を覚えた。 身体に力が入らない。 支えていた腕が崩れ、ルーファウスはベッドに沈んだ。 「あらあら、どうしたの」 笑いを含んだ声が降ってくる。 何か変だ。 ――あのワイン! 予想外の展開に愕然とする。 いったいこれは何事だろうか。 「心配しなくていいのよ」 優しく髪を撫でながら、夫人はルーファウスの耳元に囁く。 「そう、これはお父上も承知のことだからね」 ドアから数人の男が姿を現した。 一人は、この女性の夫でありこの屋敷の主でもあるはずの男だ。 あとの五人も、それぞれ知った顔だった。 ルーファウスは起きあがろうともがいたが、僅かに顔が上がっただけだ。 「いったい、なにを…」 「君は今、私の妻と楽しんだんだろう? 今度は私が君と楽しもうというのだよ。正統な要求だろう?」 脚を抱え上げられ、無防備に開かれたその場所に何かが押し込まれた。 柔らかく細長いもので痛みはなかったが、その異物感とおぞましさに喉の奥で悲鳴が上がった。 「怖がらなくていい。身体の中で融けるジェルだよ。よく濡らさないと君も我々も気持ちよくないからね」 そのまま続けて指が入り込んできた。 今度こそ痛みとショックにルーファウスは悲鳴を上げる。 乱暴に掻き拡げられ、柔らかな粘膜を抉られた。 「い、た…痛い…」 苦痛を訴えても、相手は顧みる気配もない。 手脚を押さえつけている男たちも、笑って見ているだけだ。 「キツイね。初めてなのか?」 「男がいるって話じゃなかったか」 なんのことかわからなかったが、そう語ったのが父であろうと気づくと屈辱と絶望に目の前が昏くなった。 「早くしろよ。後がつかえてるんだから」 「いい年をしてそうがっつくな」 「可愛いねえ。あのオヤジの子とはとても思えん」 「何事も経験だよ、ルーファウス神羅」 笑いながら、男はルーファウスの身体を一気に貫いた。 ルーファウスの絶叫が上がるのと、男の一人がその口を塞いだのはほとんど同時だった。 くぐもった呻きをこぼしながら、なんとかその激痛から逃れようと自由にならない身体を捩るが、それは返って男の劣情を煽るだけだった。 華奢な身体は突き上げられる衝撃に震え、見開いた蒼い瞳は僅かに濡れている。 「たまらんな…いい子だ。歯を立てるなよ」 口を押さえていた男が掌を離し、代わりに自分の屹立したものを押し込んだ。 悪夢のような時間が、実際にはどのくらいだったのかルーファウスにはわからない。 さまざまな姿勢を取らされ、次々と男を受け入れた。 精液を飲み干すことを強要され、身体の奥深く男を受け入れながら、絶頂に導かれた。 だが永遠に続くように思われたそれもいつの間にか終わって、気づくとルーファウスはただ一人で部屋に取り残されていた。 起きあがらなければ。 服を整えて戻らなければと思うが、身体が動かない。 薬の効果はとうに切れていた。 途中からは、自由に動けることを認識していた。逃れようとは思わなかっただけだ。 身動きすると、痛みと共に身体の奥に奇妙な疼きが走った。 そう。最後は確かに自分も悦楽を感じていたのだ。 よくは思い出せないが、何かまた別の薬を使われたのだと思う。 冷たい液体を入れられた記憶がある。 惨めさに、唇を噛んだ。 泣くな。 こんな事くらいで。 早く立って、ここを出よう。 早く。 「ルーファウス」 かけられた声に、ルーファウスは跳ね起きた。 「いつまで遊んでいる。そろそろ帰るぞ」 戸口に父親が立っていた。 蔑むような目でルーファウスを眺め、 「楽しかったか?」 と嘲るように言い放った。 声が出ない。 ただ、震える身体を叱咤してベッドを下りた。 脚の間に、生暖かいものが滴り落ちる。 父は汚いものを見るように顔を顰めた。 血と精液が流れを描く脚。 それを見た途端めまいが襲い、膝が崩れ落ちた。 ルーファウスは床にうずくまり、嘔吐した。 父は小さく舌打ちして、携帯を取りだした。 「誰か一人中へ寄こしてくれ。ああ、ツォンがいい。せがれは気分が悪いようだ」 弾かれたように、ルーファウスは顔を上げる。 人手などいらない、自分で始末するから、と言いたかったが父の侮蔑の視線の前にやはり言葉が出なかった。 強姦されたことよりも、そのことにショックを受け、立ち上がることすらできない自分が許せなかった。 父の前にこんな姿を曝していること。 ツォンにまでそれを見られること。 考えると惨めさと恥ずかしさでいたたまれない。 「失礼します」 小さく声をかけて呼び出された部屋へ立ち入ったツォンは、その光景に絶句した。 部屋の真ん中に置かれたベッドの横にうずくまった全裸のルーファウス。 大理石の床は僅かの吐瀉物と血と粘液で汚れており、それを見ただけでここで何があったのかまざまざと再現できるような気がした。 プレジデントは、そんな息子に声をかけるでもなく扉に凭れて感情のない視線を向けている。 それは、半年前ツォンが社長室で見たものと酷似していた。 血まみれで意識を失った息子に向けていた視線と。 「とにかく外へ出られるようにしてやれ。そのまま屋敷へ戻っていい」 そう告げると、プレジデントはドアに手をかけた。そして思い返したように振り返り、 「てっきりおまえ達はできているのだと思っていたが、おまえは思ったより慎重な男だったようだな、ツォン」 ツォンの足が止まる。 「貴重な初物をありがとうございましたと、礼を言われたぞ。まあ、手みやげとしては効果的だったがな」 そしてそのまま部屋を立ち去った。 |