「いた、いたたたたた…」
「じっとしてください」
「うぅ…」
 うっすらと涙を溜めた目で見上げられて、ツォンはため息をつく。
「そんな目で見ても、同情はいたしませんよ」
 ルーファウスは、ふん、というように顔を背けた。
「そもそもわたくしは最初から何もかも反対だったことをお忘れではないでしょうね」
「うるさい」
「クラウドにちょっかいを出すことも、反対でした。もちろん今でも反対ですよ」
「おまえの意見など聞いていない! 痛たたっ」
「自業自得です」
 言いながらツォンは、ルーファウスの背に3枚目の湿布薬を貼り付けた。
「あんな無理な恰好でやったら、背中を痛めて当然です。クラウドと貴方はさほど背丈が変わらないのですから、セフィロスとのようなわけにはいきませんよ」
「…」
「むしろわたくしの方がその体位には向いていると思いますが?」
 その声に場違いな自負を感じ取って、ルーファウスは眉間に皺を寄せる。
「おまえになど金輪際やらせてやるものか。この覗き男!」
 ついでに、なにがしかの存在を主張し始めていたツォンの股間を蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、そんなことをしたら背中の痛みで悶絶しそうだと思いつき、かろうじて踏みとどまった。
 クラウドの前では見栄を張ってなんとか何もない振りを押し通したが(もっとも眠ったふりをしてやり過ごしたのだったが)、今はベッドに起き上がることも困難だ。
「この歳でぎっくり腰とは恥ずかしくて誰にも言えませんね」
「ぎっくり腰ではない! 背中の捻挫だ」
「同じことでしょう」
「ちゃんとした医師の診断だぞ。いい加減な病名を付けるな」
「さあ、これでいい」
 湿布を繃帯で固定して、ツォンはそっとルーファウスの身体をベッドに横たえた。さすがにそれには逆らわず、ルーファウスは痛みの薄らぐ体勢で横たわる。
「何か飲み物をお持ちしましょう」
「欲しくない」
「水分をお取りになった方が良い。でないとまた点滴の世話になることになりますよ」
 声にならないため息が、ルーファウスの口から零れた。
 わかっている――のだ。
 自分のこの衝動が、言い訳できるようなものではないということは。
 そのままドアへ向かうツォンの背を見つめて声をかける。
「ツォン」
「はい」
 律儀に振り返って姿勢を正した男に、瞳を閉じながらルーファウスは告げた。

「――ありがとう」



end



100万回のKISSに戻る