Way of Difference 2コレルに建設中の魔晄炉が反神羅組織アバランチに占拠されているとの情報に、タークスは総員で魔晄炉の奪回にあたることになった。 アバランチ兵を倒しながらようやく辿り着いた魔晄炉の中心部で彼らを迎えたのは、多数のアバランチ兵、それに護られたアバランチのリーダーエルフェ、フヒト、シアーズの三人、そして思っても見なかった副社長の姿だった。 神羅の情報をアバランチに流し、魔晄炉の設計図や起爆装置まで渡していたのが、他ならぬ副社長だったことはタークスのメンバーにとってもショックだった。 アバランチと神羅は過去幾度も戦闘を繰り返しており、失われたものも少なくない。 タークスに犠牲こそ出ていなかったが、厳しい任務に誰も皆怪我の絶え間がない。 いつもなぜか後手後手に廻らされ、どうしてここまで作戦が筒抜けなのかと疑問を抱いたのも一度や二度ではない。 社内にスパイがいるのだろうということは、誰もが予想していた。 だが。 神羅の中枢に位置する副社長がそれに関与していたなど、受け入れがたい事実だった。 しかも副社長とタークスの結びつきは決して浅くない。 主任から新人まで、一度は個人的に話をしたことがある。 社員総数が億を超える神羅カンパニーという超巨大企業の頂点に位置する副社長の地位から考えれば、それだけでもあり得ないような近しさだと言っていい。 その副社長がなぜ、神羅を、タークスを敵に売るようなマネをしたのか。 だがその時点では、そんなことを考えている猶予はなかった。 主任の命令は『副社長を守って脱出せよ』で、タークスは全員無条件でその命令に従った。 だがその途中、アバランチのリーダーであるエルフェという女性がヴェルド主任の娘だったと判明する。 そしてヴェルドは娘を追ってタークスを抜け、副社長はタークス本部の隠し部屋に幽閉されるという、思いもよらぬ展開が成されたのだった。 話は少し前に遡る。 「あまりにも無謀です。お一人でウータイに出向くなど。しかもアバランチの幹部と直接会われるとは」 「何事もなかったのだから、いいだろう」 「ウータイは先の戦役で神羅ともっとも激しく戦った地域です。いまだ神羅に恨みを持つ者も少なくない。ガードも付けず出歩くとは呆れてものも言えません」 「あの時はツォンと新人が近くにいたし、逆にアバランチと一緒だから安全だと踏んだんだ。あいつらにとってまだ私は利用価値があるはずだからな」 「貴方はご自分の価値というものを軽く考えすぎておられる。もし貴方が人質に取られれば、プレジデントはカンパニーを売り払っても取り返そうとなさるでしょう」 「ふん…ならば私を人質に取ってみたらどうだ? ヴェルド」 「ルーファウス様」 「それに…」 ルーファウスは目線を外らして言い淀む。 「あのエルフェという女性に会ってみたかったんだ」 「それほどお気に召しましたか」 一瞬、ルーファウスは目を丸くする。 「おまえでも冗談が言えるんだな…。そう、声がな、気になって」 「気に入ったではなく気になってですか」 「ああ。会ってみたらもっと気になったぞ」 「どういう謎かけですか。その女の映像を見せていただけますか」 「映像はない。あちらも用心深くてな。だから直接会いに行ったんだ。こちらが油断していると見れば、あちらも手の内を見せてくれるだろう?」 「あんな組織を操るなど、リスクが大きすぎます。そろそろおやめになったがいい」 「ああ。隠れ蓑としてはちょうど良かったんだが。いいかげん潮時だということは分かっている。だから早く確認したかったんだ」 「何をですか。隠し立てせずにおっしゃって下さったらどうです」 「いや…。おまえにも自分の目で確かめてもらいたい。そのためのお膳立てはする」 「お膳立て、とは?」 「ロケット打ち上げだ。あの計画は阻止する」 「あれはプレジデントの悲願の一つであったはずです」 「ヴェルド。今この世界には、宇宙に関わっているほどの余裕はないのだ。あれはただのデモンストレーションにしては負荷が大きすぎる。父はそういうことに無頓着だ。約束の地などという世迷いごとで、無尽蔵の魔晄が手に入ると本気で信じている。魔晄は決して無限のエネルギーではない。アバランチの言うこともあながちでたらめとは言えないのだ」 「敵の思想に感化されましたか」 「正直になれ、ヴェルド。おまえだってカンパニーのやり方を何もかも肯定しているわけではあるまい。だからこそ、私のやることを今まで見過ごしてきたのだろう?」 ヴェルドを見るルーファウスの表情は冴え冴えと冷たい。 「だから私はロケット打ち上げを阻止する。そして同時に父の暗殺を指令した」 「なんということを」 「ふん、どうせ成功はしない。だがそう言っておけばリーダーが出てくる可能性があるだろう? 打ち上げの阻止だけではおそらく部下に命じて終わりになる」 「そうまでして私にその女を確認しろと?」 「必要だと思うから、そうしている。打ち上げでだめでも、次も考えてある」 「次、とは?」 ヴェルドを正面から見据えて、ルーファウスはその計画を宣言した。 「建設中の、コレル魔晄炉を爆破する」 「いつ気づかれました。エルフェが私の娘だと」 タークス本部に作られた隠し部屋の中で、ルーファウスはモニタに向かう。 聞こえているのはヴェルドの声だ。 24時間の監視と言っても、通信の内容全てまでは傍受されない。 副社長の権限でルーファウスがアクセスする情報には、逆にタークスに見せたくないものも存在したからだ。 ルーファウスの判断である程度その切り替えは行われていた。 監視の記録はもちろん父にも上げられるが、それもまた適当につなぎ合わせたファイルを用意して誤魔化す。 24時間分の記録を父が見るはずもなく、父に知られることなく行動するのにこの場所は悪くなかった。 「確証はなかった。だから、おまえ自身に確かめさせたかったんだ。最初は、どうも声に聞き覚えがあるような気がした。よく考えたらおまえの声に似ているんだ。だから顔を見たかった」 「似ていましたか」 「ああ。私がおやじに似ている程度には、似ているんじゃないか?」 そう言って、ルーファウスは笑う。 「こんな成り行きになるとは、私も予想していなかったのだが…。彼女がおまえと和解して我々に協力してくれればと、虫のいいことを考えていた」 「副社長には申し訳ないことをしました」 「いや。この部屋の住み心地も悪くない。ミディールあたりの僻地にいるよりは仕事もしやすいしな」 「私事で仕事を投げ出すなど…」 「それがおまえの選んだことならば、何があっても完遂しろ。それでこそのタークスだろう。必ず彼女をフヒトから救い出せ。フヒトは危険人物だ。彼の計画は絶対に頓挫させねばならん。そのためにも、おまえの娘は護れ。これは私からの命令だ」 「はっ。…了解しました。副社長」 「それとな」 「はい」 「彼女と会えたら、金髪の男は好きかと聞いておいてくれ」 「…は?」 「冗談だ。察しの悪い男だな」 笑い声と共に通信は切れる。 ヴェルドはしばし携帯を眺める。 生きて再び顔を合わせることがあるかどうかも分からない。 だが、あの方には最大限の感謝を捧げよう。 私と、娘からの。 そして、叶うのならばあの親子にも、和解の時があるように。 そんな願いは、彼の人に届くはずもないではあろうけれど。 娘を救うために神羅を裏切ったヴェルドと、父親と完全に訣別するために裏切りを演出したルーファウス。 二人の運命が再び絡み合うのは、四年の後になる。 end 補足 ルーファウスがこんな成り行きと言っているのは、魔晄炉内でヴェルドに出会ったエルフェが記憶を取り戻し(それまで記憶喪失だった)、いきなり倒れてフヒトに連れ去られたこと。 フヒトは仲間であったシアーズも殺害しようとし、意識を失ったエルフェを拉致して姿を消した。 ヴェルドの娘エルフェはカーム誤爆事件の際重傷を負い、ニブルヘイムの実験施設で実験材料にされた挙句失敗作として廃棄されたらしい。 カーム誤爆事件は、ヴェルド自身の指揮下で起こった出来事であり、ヴェルドはこれに対し複雑な思いを抱いている。 この事件で妻子を失ったことによってますます仕事の鬼に徹していったという経緯がある。 |