恋人 「だいぶ慣れたな」 セフィロスは、ルーファウスの中に指を潜り込ませながらその耳元に囁く。 「ん…っふ、」 微かに身を捩りながら、ルーファウスは笑いを含んだ声で答える。 「緩くなったとでも言いたいのか」 「このくらいが丁度いい。あまりキツイと強姦しているようで気が滅入る」 「ふふ…君のが巨きすぎるんだ…」 笑い声に吐息が混じる。 「最初の時のことだろう?」 金色の髪の少年は平静を装っているが、上気した頬と荒くなる息がそれを裏切っている。 「…っ、あの時、は、ケアルが効かなくて焦って…た、あぁっ」 2本の指で少年の入り口を開き、奥をかき回す。 ルーファウスの身体が跳ね上がり、高い声が上がる。 セフィロスはそれを楽しみながら、猶も言葉を紡ごうとする口を塞ぐ。 「五月蠅い口だ」 「ん、ん…」 口内を貪りながらも、ルーファウスを追い上げる手の動きは止めない。 確かに初めての時は余裕が無さ過ぎたと思う。 だが半分は敢えて、だったと言ってもいい。 別れた時はまだほんの子供だった。 大人達に囲まれ、ひどくか細く頼りなく見えるにもかかわらず、その高い矜持ゆえに決して子供であることを言い訳にしようとはしなかった。 そんなルーファウスを好ましく思っていた。 それがなぜこの時になってまるで甘えようとでもいうようにセックスを求めてきたのか、セフィロスは掴みかねた。 他の多くのオトナたちにとってそうであったように、セフィロスにとってもこの少年は謎の存在だった。 だから、試すように敢えて過激な行為を強いた。 だが、ルーファウスは何も言わずに全て受け入れた。 ソルジャーでもない相手に対するには、あまりにも乱暴だった。 しかも二人の体格差は歴然としており、人並み外れた身体能力を持つセフィロスに対し、ルーファウスはその年頃の少年としてもかなり華奢な方だった。 力任せの行為の結果がどうなるか、セフィロスとて鑑みなかったわけではない。 だが、怪我も血も戦場で見慣れている。 セフィロスの能力を以てすれば、ケアルガだけでたいていの状況には対処できた。 しかしルーファウス自身の言うように、思ったよりも酷かった傷と、その傷を癒すべく発動した魔法が一切効果を現さなかったことにセフィロスは焦った。 それでもルーファウスはそんなセフィロスの焦躁をよそに、心配は無用だと笑った。 自分の始末くらいは自分でつけられる。君の手を借りるまでもない、と、傷ついた身体を庇護うこともせず笑みを見せる彼に、セフィロスはやはりこの子供は謎の存在だと認識を新たにし、そして改めて惹きつけられた。 ルーファウスの意図がどこにあったのか明確に理解出来たわけではなかったが、彼の感情に偽りのないことはわかった。 セフィロスはもともと理詰めでものを考えるタイプではない。 幼いときから経営者としての英才教育を受け、策謀の世界で生きてきたルーファウスに比べれば、セフィロスの世界はずっとシンプルだった。 だがその分、人の感情――むしろ人の放つ『気』のようなもの――に対しては敏感だった。 戦場で生き延びていくためには、必須の能力だったといってもいい。 だから、ルーファウスが自分に向けてくる気持ちはそのまま受け止めた。 それはとてもシンプルな感情だった。 『誰よりも自分がいちばん、君の近くにいたい』 そう、ルーファウスは訴えかけてきたのだ。 そのための手段としてセックスを彼が選ぶなら、そのことに異を唱えるつもりはなかった。 二度目からはもう少し自制を持って接することができるようになった。 ルーファウスを試す必要はもう無かった。 二人は互いを恋人として認め合うことができたのだから。 ゆっくりとルーファウスの身体を慣らし、その小さな場所がセフィロスを受け入れられるまで開いてゆく。 ルーファウスはその執拗な前技をむしろ嫌がったが、この矜持の高い少年が恥じらう様はセフィロスを悦ばせた。 「あ、あぁ…セフィロス…」 あがる声は愛らしく、そのくせルーファウスの欲情をこれ以上なく厭らしく伝えてくる。 まだ少年の幼さを残した身体のラインに沿って手を滑らせれば、熱い吐息が応えた。 その声で名を呼ばれることは、セフィロスを亢らせる。 「セフィロス…早く、もう、焦らすな」 その命令口調も可愛らしいと思うのだから、自分も相当入れ込んでいると、自覚はある。 それでもいい。 この腕に抱いているのは只人ではなく、カンパニーの次期社長だ。 その地位がどんなものかは、カンパニーの中枢近くにいるセフィロスにはよくわかる。 そしてルーファウスはこれ以上なくその地位に相応しい。 いつか彼がセフィロスの指揮官となるのだ。 それもまた良いと、セフィロスは思う。 自分は軍人だ。 命ぜられるままに破壊と殺戮を繰り返すことにも、馴染んでしまった。 だが、ルーファウスと二人で見る夢は、ただそれだけではない何かをもたらしてくれるような気がした。 それがどんなものかは、まだわからなかったけれど。 ルーファウスの小さな身体を押し開き、その中へ入り込む。 悲鳴に近い喘ぎが放たれるが、それは決して拒否でも抗議でもない。 その証拠にルーファウスはセフィロスの背に回した手に力を込める。 挿入の痛みに耐えながら、もっと奥へと誘うように脚を絡めてくる。 セフィロスはゆっくりと身体を進めながら、目を閉じたルーファウスの表情を楽しむ。 額に浮かんだ小さな汗の粒さえ美しい。 そして、受け入れるだけで精一杯、という時はわからなかったが、慣れてくればルーファウスのセックスは巧みだった。 二人で求め合い溺れる情事は、二人にとってかけがえのないものとなりつつあった。 身体を重ねることで共有する秘密が、二人の絆だ。 『友人』という関係を逸脱してルーファウスが何故それを求めたのか、セフィロスにもようやくわかってきた。 二人の間には『秘密』が必要だと、ルーファウスは考えたのだ。 ―――『公然の秘密』が。 先手を打って二人の関係をセクシュアルなものに固定することで、周囲の警戒を回避するための。 まだガキのくせに、小狡いことこの上ない。 だが、そんなところもセフィロスには好ましく思える。 激しくルーファウスの身体を突き上げながら、上がる悲鳴を楽しむ。 屹立したものを軽く扱いてやれば、あっけなく達して身体から力が抜けた。 それでも容赦せず責め立てると、いやいやするように首を振りながら、眦から涙を零す。 それが頬を流れていくのも惜しく、セフィロスは舌でそっと舐め取った。 ルーファウスは、ニブルヘイムの事件を幾度も独自に調査した。 自らその惨劇の舞台となった村へ出向いて、セフィロスが見たと言われる資料をあさったりもした。 だが、本当のところ何が起きたのか、結局はわからなかった。 この事件の引き金を引いたのが、自分とセフィロスの関係だったのだろう、ということはわかる。 父ではないと思う。 父のやり方にしては杜撰に過ぎるし、そもそもカンパニーにとって決して利益とならない。 あれほどセフィロスを重用していた父が、そんなやり方をするとは思えなかった。 おそらくはその側近か、佞ようという意図のあった者か、その辺りの人間が、セフィロスと自分を引き離すために、神羅への不信を彼に植え付けようとしたのだ。 そのために、出生の秘密を彼に対して暴露した。 『母の名はジェノバ』 そう、セフィロスは言っていた。 父親が誰であるのかは最後まで知らなかったのだろう。知りたいと思ってもいなかったようだった。 ただ、顔も知らぬ母をセフィロスは純粋に慕っていたのだろう。 同じように母の顔を知らずに育ったルーファウスだが、その感情は今ひとつ理解できなかった。 父親との決して良好とは言えない関係が、血縁への嫌悪をルーファウスに抱かせていたからだろうか。 ――結局セフィロスは自分より母を選んだのだろうか―― その疑問は、ルーファウスにとって酷く辛いものだった。 心の底から信頼し、愛していたと思っていたのは、自分だけだったのか。 今となっては知るよしもない。 そして何故セフィロスほどの者が名もない一兵士に害されるなどということになったのか。 何もかもが謎だった。 その謎が、いくばくかでも解明されるのは、5年の後の話となる。 end |