「先輩、社長がおられないんです!」
 駆け込んできたイリーナが、叫ぶように言う。
「ああ、主任もいないんだぞ、と。で、ついでにヘリもないんだぞ、と」
「ええ? あのお身体でどこかへ出かけたと?」
「だーろーな」
「どこへ行かれたんですか!?」
「さーてね。たぶんミッドガルあたりじゃないかな、と」
「ええ!? なんで今頃? なんの用があって」
「詮索しない方がいいんだぞ、と。イリーナちゃん。あの二人には、二人だけで決着を付けなきゃならないことがあるんだぞ、と」
「決着って…なんですか、それ。まるで仇同士みたいじゃないですか!」
「まあまあまあまあ」
 叫ぶイリーナを残してレノは外に出る。

 夜空は暗く、彼方に見えるミッドガルにかつての魔晄都市の面影はない。
 地上近くにチラチラと瞬く頼りない灯りだけが、人々の生きる証だ。
 メテオ落下からひと月。
 ミッドガルに春はまだ遠く、吹く風は冷たい。
 レノは一つ、ためいきを落とす。
 見上げる空に、ヘリが戻る気配はない。


 社長――
 
 あの彼方にいるはずの人に、レノは呼びかける。

 あんたはようやく『神羅』から逃げることに成功したんだろ。
 会社無くなって、自分は死んだことになって。
 それでやっと、『神羅カンパニーのルーファウス・神羅』はただのルーファウス・神羅になれたんだ。
 
 世界がこんなふうになっちまったのは、別にあんたの責任じゃない。
 きっとどうやってたって、結果は変わらなかった。
 たったひと月ちょっとで、いったい何が出来たっていうんだ。

 だけど、あんたはそうは思わないだろうな。
 この結果も全部、自分の責任だって思ってるだろ。
 そういうとこ、好きだけどな。

 だから早く帰って来いよ。
 みんな心配してるんだぞ、と。

「レノ」
 いつの間にかルードが後ろに立っていた。
「社長は?」
「まーだ。どっかで主任とよろしくやってんじゃないの、と。ま、せめて屋根のあるとこでとお願いしたいけどね、オレとしては」
「…」
 赤くなって黙り込んだルードの胸を肘でつついて、レノは促す。
「オレ達も中で待とうぜ、と。さみィや」

 レノはもう一度ミッドガルの方向に目をやる。
 やっと主任を手に入れたんだから、満足だろ、社長。
 次はも一度世界を手に入れ直そうや。

 遠くで風の唸りが応える。
 死人しびとの怨みか、星の抗議か。

 どっちでもかまうもんか。
 オレ達はそのためにここにいる。
 あんたはそのために生き残ったんだから。

 なあ。
 ―――社長
 そうだろ?

 次の目標は、
 
 ―――神羅カンパニーの再建だぞ、と。




end