「ヒューッ、こりゃ、ちょっとしたもんだ」 レノが小さく感嘆の声をもらす。 「ですよね、私も驚きました」 銃声と共に、遙か彼方の標的が次々と撃ち抜かれていくのを見ながら、タークスたちはこそこそと言い合う。 「あの距離なら、最初は10発撃って1発当たれば上等だ」 ルードが唸るように言う。 「イリーナは今でも10発撃って1発も当たらないぞ、と」 「失礼ですね!1発くらいは当たりますよ」 「今日は風もある。勘で撃っているならたいしたもんだ」 「スナイパーかあ、ルード、みっちり仕込んでやれよ、と」 ぽんぽんと肩を叩くレノに、ルードは重々しく頷いた。 それを少し離れた場所で見ていたツォンもまた、呟く。 「意外な才能ですね。まだライフルの訓練を初めて2日だそうですが」 「私の目に狂いはなかったということだ」 単なる気まぐれをそんなふうに正当化されるのはどうかとも思ったが、ここは引いておく。 「ええ。あの子はいいタークスになるかもしれません」 「おまえ、また私を信用していないな」 「そんなことは…」 「あんな年の子供が、庇護者もなく組織にも属さず、ミッドガル周辺で5年も生き抜いてこられたことがそもそも驚きだ」 「…そうですね」 「ここへ連れてきてから教えたことも、すぐ飲み込んだ」 「確かに」 「タークスとしての素質は十分だろう?」 「それになにより…」 ライフルを構えた少年を見やりながら、ツォンは薄く笑った。 「心底貴方を敬愛している」 「おまえのライバルになるか」 「そんなことはさせません」 「ふふ」 金の髪が風に散り、陽に透けて燦めく。 美しく聡明な指導者は、我々の誇りだ。 貴方が最後の社長であったことは、カンパニーに関わった全ての者にとって幸運だった。 世界の安定を願う貴方の意志は、こうして次の世代にも受け継がれていく。 「イリーナ、射撃訓練は切り上げろ。エッジに出向く」 「はい!」 イリーナの良く通る声と、もう子供とは言えない低さのデニスの声が返る。 明るい陽射しに、彼方のミッドガル本社の窓が光っていた。 End |