「ああ、もうっ …無理…っ マキナっ」 俺はエースを四つん這いにして、後ろから突き入れてた。 エースの崩れそうになる膝を支えながら、激しく腰を動かす。 エースの中が俺に絡みついて、俺の放ったものがぐちゅぐちゅと音を立てて溢れてくる。 エースの口からは意味を成さない声が、荒い息と一緒にひっきりなしに零れてた。 エースのものからはだいぶ前に薄いのが出たきりで、もうあとはぽたぽたと透明な雫しかこぼれてこない。 俺が何回イったかなんて、数えてない。 エースの身体のずっと奥まで俺のが流れ込んでると思うと、すごく興奮する。それって最初はエースが言ったんだけど。 この体勢だと俺のをくわえ込んでるエースの穴が丸見えで、長時間の行為に緩んで柔らかくなったそこは、簡単に俺のを根本まで全部受け入れる。引き出すと内側の赤い粘膜が覗いて、これが俺のを包み込んでるんだとわかる。エースが背を反らせるたびにそこがぴくぴくと俺を締め付ける様子まで見て取れる。 『無理』って言いながらもエースはがくがくと震えて、全身で快感を露わにする。だからやめられない。エースだって、本気で嫌がってはいない。 すごく辛そうで、でも、どうしようもなく感じてるって声だ。俺もそうだからよくわかる。 エースの身体を支え続けた腕や脚は疲れ切って痺れてるし、エースが爪を立てた背中はたぶん傷だらけだ。 でもやめられない。 やめたくない。 いつまでも、エースと繋がっていたい。 エースの薄い腹を撫でると、その中で俺のが動いてる感じがよくわかる。エースの身体の奥まで、俺が入り込んでる。 こんなふうに繋がる行為を男同士ですることに、本来はなんの意味もない。 そこにあるのは、お互いの好きって気持ちだけだ。 気持ちいいからセックスする。 そういうものなんだと、ずっと想像してた。 君に逢う前は。 だけど、そうじゃなかった。 君と繋がりたい。君とこの気持ちを分かち合いたい。 君の身体から、俺が好きだっていう気持ちが伝わってくる。俺の気持ちもきっと伝わってる。 だからセックスするんだ。 ふと気がつくと、辺りはもう真っ暗だった。 僅かに窓から射し込む灯りに、腕の中のエースの髪が燦めく。 いつ眠ったのか、記憶にない。 たぶんエースもだろう。 俺の腕の中で、死んだように眠ってる。すうすうと聞こえる寝息がなければ、ほんとに生きてるか?と思うくらいだ。 さすがに繋がりっぱなしではなかったけど、シーツも身体も何かでべとべとごわごわする。 ひどい有様だな、と思うと笑いがもれた。 同時に俺の腹がぐうっと鳴る。 そういえば、昼飯も夕飯も食ってなかった。 ずっとヤリっぱなしだったから、ドーパミン大放出で全然気がつかなかったけど。 今何時くらいだろう、と時計を見ようとしたら腕の中のエースが身じろいだ。 「ん…んん…マキ、ナ…?」 寝ぼけた声が俺を呼ぶ。 「エース」 そう囁いてその身体を抱きしめる。 エースは「うーん」とかなんとか意味を成さないことを言って俺の胸に頭をすり寄せたかと思うと、またすうすうと寝息を立て始めた。 え、また寝ちゃうのか、エース? 俺、腹ぺこなんですけど。 …… 起きる気配もない。 どうしようもなく腹が減ってきた。 でも、満ち足りた顔をして寝ているエースを見たら起こすのは忍びない。 ああああああ いったいどうしたらいいんだ!? 俺のキューキョクの悩みは、しかし意外なところから破られた。 突然、警報が鳴り響き窓の外で灯りが行き交う。 何事だ!? と身体を起こしかけた俺の腕の中で、さすがにエースも目を開けた。 「なに……?」 まだ寝ぼけた声だけど、窓から入る強い光に目を眇める。 「外で何かあったみたいだ」 俺はベッドを飛び降り、窓に駆け寄った。すぐにエースも付いてくる。 「タイマイ…?」 二人の声がハモった。 暗いし、浜辺の警備隊が照らし出すサーチライトがちらちらして、正式な名称まではとても分からない。 けれどそこにいたのは間違いなく『タイマイ』と呼ばれる類の巨大カメ型モンスターだった。 慌てて制服を着て部屋を飛び出した。 館内放送が、『お客様は係員の誘導に従って下さい』と繰り返してるが、俺たちはパニックになってうろうろしている客たちをかき分けて階段を駆け下りた。 ロビーを出ようとするとホテルの警備員に止められたが、 「俺たちは魔導院の候補生です」 と言うと、制服を見て納得したらしく、ほっとしたような表情が浮かんだ。 魔道院の候補生は、朱雀の中ではもっとも戦闘力が高い。それは誰でも知っていることだ。 浜辺では警備隊がタイマイと交戦中だった。 でかい。 滅多に上陸してくることはないと聞いたのに、俺たちってタイミング良すぎ!? タイマイに向けて走り寄る俺たちを警備隊員はやっぱり止めようとしたけれど、制服を見て 「候補生? なぜ今頃こんなところに?」 と目を丸くした。 「下がってて下さい。俺たちに任せて!」 叫びながら、走る。 「エース、俺が囮になる。魔法詠唱してくれ」 「分かった」 俺はレイピアを出し、カメの攻撃を避けながら頭を狙う。こいつらは、頭以外は物理攻撃が通らない。 エースが魔法詠唱をしてるが、なかなか発動しない。いったい何装備してるんだ!? カメの吐いたアブクが目の前に迫って、やられる、と思った途端に、強烈な風が大気を切り裂いた。 アブクもカメも巨大な渦巻きに呑み込まれる。 トルネドかよ! 遊びに来るのに、なんて魔法装備して来てんだ、エース。 トルネドは、モルボル級のモンスターも一撃で倒す強力な魔法だ。 威力もあるが、詠唱時間もかかるしMPの消費も半端ない。 さすがにカメはダウンし、そのままずりずりと海中へ逃げて行く。 うおーっと、周囲から歓声が上がる。 カメが完全に姿を消したのを確認して、俺はエースを振り返った。 「エース?」 確かその辺にいたはずなのに、姿が見えない。 「エース、どこだ!? エース!」 返事がない。 というか、辺り一面に人々の歓声や怒鳴り声が満ちていて、たとえエースが返事したとしても聞こえないだろうし、俺の声も届いてないかも。 エースの姿を捜してうろうろする俺に、警備隊の人たちが駆け寄ってきててんでに肩を叩いたり背中をどついたりした。 「いやあ、助かった」 「さすがに候補生は違うな!」 「すごい魔法だった!」 ますますうるさい。 エースはどこだ!? 「エースは、俺の連れはどこですか」 言いながら人の輪を抜け出して砂浜を走る。 昼間は青く澄んだ穏やかな海と白い砂浜が綺麗だった海岸も、今は暗い中にあちこち火が焚かれ、ライトが行き交う騒然とした場所になっている。 人影はたくさんあるが、エースがどこにいるのか分からない。 俺と同じようにここの人たちに捕まってるのか。 むやみに歩き回っているうちに、また誰かに肩を叩かれた。 「君、君の連れだって言う子があっちに」 「すみません!」 皆まで聞かず俺は指差された方へ向かって走り出した。 エースは砂浜に座り込んでいて、周りを何人かの大人が取り囲んでた。 「担架はまだか!」 と一人が叫んでる。 担架!? どこか怪我でもしたのか、エース! 「エース!」 俺が走り寄って肩を掴むと、エースは俯いていた顔を上げた。 「マキナ…」 「エース、どうした、怪我したのか!?」 エースは首を振る。 「動け、ない…」 「どうしたんだ!」 「腹…減って」 それだけ言うと、くったりと俺の腕に倒れ込んでくる。 「君、大丈夫か、その子は?」 エースのちょっとまぬけなセリフは聞こえなかったらしく、心配そうな声がかかった。 「平気です。大きな魔法使ったんでちょっと疲れただけですから」 「そうなのか」 「俺が部屋へ連れて行きます」 エースを抱えて立ち上がる。 軽い。 きっと、HPもMPもどん底だろう。メシも食ってなかったし、やりまくった後だし、難しい魔法を使うのは精神力も体力もいる。 こんなに細い身体のどこにそんな力があるんだろうと、いつも思う。 エースは俺の胸に顔を伏せて黙って抱かれてる。 普段だったら、人前で俺に抱かれるなんて絶対許してくれなさそうだけど、今はまあ、緊急事態だ。辺りも暗いし、みんなカメの後始末に忙しくて俺たちの方なんか見てない。 俺はこっそり、ぎゅっとエースを抱きしめた。 部屋に戻ってエースをソファに寝かせた。 ベッドはぐちゃぐちゃでとても寝られる状態じゃなかった。 さて、どうしたらいいんだろう。 この部屋には飯なんかありそうもない。 何か買いに行けばいいのか? 今頃開いてる店があるんだろうか。 うろうろしているうちに、冷蔵庫を見つけた。 開けてみると、飲み物が入ってる。 とりあえず、適当に幾つか取り出してエースの所へ持って行った。考えてみたらあんなに汗をかいたのに、なにも飲まずに寝入ってたんだった。 「なにか飲む?エース」 「ん…」 エースは目を開けて、俺の手の中にある飲み物を見ると、一本に手を伸ばした。 それを飲み干して一息つくと、エースは 「マキナ、ルームサービスになにか頼んでくれ」 と言う。 るーむさーびすって、なに? エースが突っ立っている俺を見上げて、しばし見つめ合う。 見つめ合っていても、なにも進展しないらしい、と悟ったエースは俺に次の指令を出した。 「そのデスクの一番上の引出しにたぶんメニューが入ってるから。それと電話」 俺は両方を探し出してエースに渡す。 エースは慣れた様子で電話の向こうになにやらいろいろ注文した。 そして電話とメニューをテーブルの上に投げ出すと、はあ、と息をついてまたソファに沈んだ。 「マキナ」 ポンポンとソファを叩いて俺を呼ぶ。 横に座ると、 「やっぱりマキナは体力あるなあ」 と薄く笑った。 「エースは無理しすぎ」 俺も笑う。 「いきなりトルネドかましたのは吃驚したよ」 「それしか装備してなかったんだ。というか、昨日の実践演習で装備したまま忘れてた」 「エースらしくもない」 「そうか? だって、今日は嬉しくて舞い上がってたから」 綺麗な笑顔を見たら、たまらない。 俺はエースに覆い被さってキスする。 エースの腕が上がって俺の背を抱く。 あわや第二ラウンド突入、というところで誰か来た。 これが『るーむさーびす』か。 俺は設えられたテーブルに次々並べられていく料理を見ながらぼけーっと口を開けていた。 メニュー全部頼んだんじゃないか、という量を並べ終わると、ボーイたちはまたエースに深々と頭を下げて出て行った。 やっぱり俺は客とは思われてないらしい。同じ制服着てるのに… 「食べよう、マキナ」 エースはやっとソファから身体を起こし、テーブルに向かう。 「おう」 どれから食べようか迷う。 迷ってるうちに、また邪魔が入った。 ドアを開けると今度は警備隊の隊長らしき制服の人物と、あと何人かのおっさんが並んでた。 おっさんたちは部屋になだれ込んでくると、さっきのカメ事件についての礼を蕩々と述べ始めた。 「申し訳ありませんが」 エースがおっさんを遮った。 「僕たち、学校サボってここへきたので」 「は?」 おっさんたちの目が丸くなる。 「というのは冗談ですけど、外で勝手に戦闘したことが学院に知れると面倒なんです」 一瞬で会話の主導権を握るやり方は、さすがだ。 「そういう規則なのか?」 「はい。本当は、認可の下りたミッションしか参加できません。でも今夜は緊急事態でしたし、大目にみてはもらえると思うんですけど、でもやっぱり報告書を山ほど書かなきゃならないし、すごく大変なんです」 エースは、真面目で責任感のある優等生をきっちり演出してる。その上、ちょっとまずいことに関わって困ってる子供で、今はカメと戦って疲れ切ってます、という効果も上乗せだ。しかもこれでもか、と可愛さも振りまく。 「だから、僕らが戦闘したことは、できたら内緒にしてもらえませんか」 「…なるほど」 おっさんたちは、エースの顔に釘付けだ。 「撃退のお手伝いしただけ、ということにして置いてくださると、とても助かります。学院への報告は、僕がちゃんとします」 「そういうことなら」 と警備隊の隊長が頷いた。 「ありがとうございます」 エースは特上の笑顔でにっこり笑う。大サービスだ。 おっさんたちはどぎまぎした表情で、 「食事の邪魔をして悪かったね」 なんて言いながら去っていった。 「はあ」 エースはますます疲れ切った声でため息をつく。俯いた額が料理の皿にくっつきそうだ。 やっと飯にありつける、と思った途端におっさんたち相手に無駄なエネルギーを費やすことになったんだから、当然だ。 「ほら、エース、食べよう」 俺はスプーンにすくった料理を、エースの口元に近づけた。 エースは顔を上げると2、3度瞬きして俺を見つめ、それからようやく合点したように口を開いた。 エースの口の中に、料理が呑み込まれていく。 うわあ、えろい。 どうしよう、これだけでまた勃ちそうだ。 「マキナも食べなよ」 やっと自分で料理に手を延ばし始めたエースが、場違いな衝動に固まった俺に言う。 「あ、ああ」 ようやく返事して、俺は今度こそ料理に向かった。 テーブル上の料理を平らげた頃には、日付が変わってた。 騒がしかった窓の外もすっかり静まりかえり、聞こえるのは波の音だけだ。 「なんだか慌ただしい夜だったね」 俺が言うと、 「ここまで来てまさかトルネド使うとは思わなかったよ」 とエースも笑った。 「そういや、俺たち身体も洗ってなかったな」 「そうだった。君のとか僕のとか、身体中付きっぱなしだ。臭わなかったかな」 エースはころころと笑う。 「大騒ぎだったから、誰もそんな事気にしてないさ」 「だといいけど」 「洗うか」 「うん」 それから俺たちはまた風呂で身体を洗いっこした。 俺はエースの身体を見てるだけでまた臨戦態勢だったけど、エースはバスタブの中でもコックリしてた。 これ以上とても無理だなって思ったから、ベッドからぐしゃぐしゃになった布団を払い落として、クローゼットの中から見つけた(エースが予備があるだろうって言ってくれたんで)毛布に二人で抱き合って潜った。 エースはすぐにすうすう寝息を立て始めたけど、俺はなんだか目が冴えて眠れなかった。 窓から射し込む月の明かりに、エースの髪が燦めく。 どこか知らない遠い世界から来たエースと、オリエンスの田舎で育った俺が魔導院で出会った。 奇跡みたいな確率のことだったんだろう。 明るいところでよく見ると、エースの身体には古い傷がいっぱいあることにも俺は気づいた。 きっと『2年前に誘拐されたとき』の傷なんだろうと思った。 そんなひどい怪我をして、よく助かったものだと思う。エースは軽く話してくれたけど、どんなに怖くて苦しかったろうか。 自分の世界で、エースはこことは比較にならない大変な生活をしてるんだろう。 オレはいろんな感情が一気に押し寄せてきて、声を押し殺しながらただひたすらエースを抱きしめた。 エースとはペリシテリウムへ続く橋の前で別れた。 笑って手を振ってくれたエースを後に、オレは一度も振り返らず真っ直ぐ橋を渡った。 チョコボに揺られながら、こぼれ落ちる涙をぬぐうこともできずに。 End |