ビデオ5


「飯だぞ」
ドアを開けて入ってきたミュッテンを見て、ベッドのルーファウスは眼をしばたたいた。
「だいぶ顔色が良くなったな。食べられるか?」
「手ずから運んで貰ったのでは、食べないというわけにもいかないだろう」
ルーファウスは軽く笑って言う。
ミュッテンは一瞬それに見とれ、だがすぐに表情を消した。
ルーファウスはもちろんそれを見逃さない。しかしそんなそぶりはおくびにも出さず、ただ身体を起こそうとして小さく呻いた。
コルセットを外されたまま放置された肋骨が軋みを上げ、ようやく熱が引いたばかりの身体は鉛のように重い。そのままシーツにくずおれ、荒い息をつく。
「それだけ元気があるなら食事は後でもいいな」
ルーファウスの様子などにはお構いなく、ミュッテンは食事を載せたトレーを床に置くと、ベッドに乗り上げた。
そのまま裸同然のルーファウスを俯せにし、膝をつかせて局部が丸見えになるような姿勢を取らせる。
「こっちもだいぶ良くなったようだしな」
ポケットからチューブを取りだし、必要以上の量の薬を絞り出した。
ミュッテンの指が薬を塗りつける感触に、ルーファウスは震える。痛みはずいぶん薄らいだが、不快なことに変わりはない。指は周囲をゆっくりと撫で回し、次第に奥まで入りこんでくる。
ぐちゃぐちゃと粘着質な音が響き、中を掻き回す。
ここ数日間、ミュッテンは薬を塗りつける以外のことをしようとはしなかったが、今日はそれ以上のことをするつもりらしい、とルーファウスは気づく。

さんざん掻き回した後、ミュッテンははち切れそうに怒張した己のモノを突き挿れてきた。
まだ治りきらない傷口を抉られる痛みと、正確に前立腺を突いてくる刺戟にルーファウスは喘いだ。
「良い締め付けだ…ホントにこれが好きだな、社長…」
だがむしろミュッテンの声の方が余裕がない。
激しく腰を打ち付けると、間もなく達したらしかった。
ルーファウスはほっと息を吐く。
ミュッテンが抜け出すと、どろりと液体が流れ出すのを感じた。
「血はそれほど出ていない。この調子なら、じきにまたもっと楽しめるようになるぞ」
それが待ちきれない、というように上ずった声が足下から聞こえる。しげしげと覗き込まれ、拡げられたそこを拭われても、ルーファウスはもう羞恥は感じなかった。
むしろミュッテンの声の響きに、『この男はもうすぐ私の言うなりになる』との手応えを聞いて満足感を覚える。

「…食事をする。すまないがそれを取ってくれないか」
床に放置されたままのトレーに目をやり、それからミュッテンを見上げてルーファウスは乞うた。
命令ではなく懇願でもない。しかし、人を従わせる――従いたいと思わせてしまう力を秘めた声音と表情だ。それは、ルーファウスの天性の資質でもあり、年月を掛けて磨かれてきた技術《テクニック》でもあった。ルーファウスを教育した教師たちの誰もが手放しで絶賛した才能だ。

ミュッテンは嬉々として――自分ではまったく気づかずに――ルーファウスにトレーを差し出し、
「次はもっとゆっくり時間を取って楽しませて貰うからな」
と言い置いて地下室を出ていった。
ミュッテンの足音が遠ざかるのを聞きながら、ルーファウスはカメラから顔を背けて忍び笑った。見る者が居たら背筋が凍ったに違いない、酷薄で邪悪な笑みだった。