口唇















 セフィロス――

 セフィロスと出会った日のことは、今でもはっきりと覚えている。
 初めて触れ合ったときのことも。

「あ…クラ、ウドっ」

 この男が欲しかった。
 ソルジャー1.st。
 自称元、と揶揄したとてこの男が今現在世界最強であることは間違いない。
 かつてセフィロスがそうであったように。

 俯せに這って、身体にその指を受け入れる。
 この前までは、いかにも慣れないそのセックスは消極的でほとんどただホンバンだけに限られていたのに、いったいどうしたというのか。
 まるで嫌がらせのように身体を開き、探るように中を指で掻き回す。
 奥まで突き立てられた指がイイところをかすって、私は声を上げる。身体が痙攣するように跳ね上がり、股間が熱くなる。
 シーツに擦れるだけで達ってしまいそうだ。

 私は分からなくなる――
 ――身体の奥で蠢く指が誰のものか。


 背後うしろから背後からと五月蠅く言っていたくせに、シーツに押さえつけて背中に舌を這わせただけでこの尊大な男は身体を震わせて声を上げた。
 その声がいつもよりなんだか細く哀れっぽくて、クラウドは胸苦しいような気分になる。
 騙されたのだと分かっても、『死んだ』と言われたときのショックは胸に残っている。
 こうして目にする裸の背に走る幾筋もの傷痕。そこに耳を寄せて聞く呼吸音には、嫌な雑音が混じる。ごく普通に生活しているように見えても、ルーファウスが健康体でないことは明らかだった。
 たとえあれが質の悪い嘘だったにしても、明日本当にならないとは限らないのだと思う。ウェポンの攻撃で負った傷がいまだに癒えないというのも、星痕のため実験薬に近いものを使用していたというのも、事実だろう。
 この華奢な身体で神羅カンパニーを背負い、今もその亡霊を背負い続けている。
 その亡霊の最たるものが、セフィロスだ。
 比べられることも重ねられることも不愉快だと――そう思っていた。
 けれど、ルーファウスにとってセフィロスがどんな存在だったのか――今日初めてそれを思った。
 喪った者を嘆く気持ちなら、嫌というほど覚えがある。だが、喪った者を乞う気持ちはよくわからない。それに何の意味があるというのか。まして今ここにある者をそれに擬えて、満足を得ようなどということに。
 そう、思っていたのだ。
 だが――
 
「あっ、や、クラウド、だめだ…っ」
 指でその部分を押し開き、奥と入り口の部分を同時に抉ると、まるで恥ずかしがるように身をくねらせてその刺戟から逃れようとする。そんなルーファウスを、クラウドは珍しいものでも見るように眺めた。
 いつだって余裕綽々で翻弄されるのは自分の方だったのに、今日に限ってこの反応は何だろう。
 実際、こんな風に覗かれることはこの男でも恥ずかしいのかもしれない。
 そう思うと、急にルーファウスが身近になった気がした。
 コイツにも可愛いところがあるじゃないか。
 その反応が楽しくて、もっと脚を開かせ露わになった部分をじっくり見つめた。
 そこは綺麗な鳶色をしていて、内側にはあざやかな薄紅色が覗く。指を入れていてさえ幾分きつくて、とても副社長と呼ばれていた時代から男を咥え込んでいたとは思えない。
 けれどここがあのセフィロスを受け入れたことがあるのは確かな事実で。
 セフィロスのアレはどの位の大きさだったんだろう、と下世話な興味が湧く。英雄と呼ばれるに相応しい持ち物だったのだろうか。
 クラウドとて普通の男だ。ソレの大きさを比べてしまうのは、男のサガのようなものである。ルーファウスはどうだか知らないが。
 少なくとも、ルーファウスのソレはごく普通のサイズだ、と思う。ソレを囲む毛も明るい金色で、こんな所まで綺麗な男だとあきれる。決して女性的なわけではないが、男を抱いているのだという生々しい実感を忘れさせる。
 身体の中の感触を確かめながら、堅く勃ち上がったものにも指を這わせてやると、ルーファウスは喬い声を上げ背を大きく反らせながら射精した。
 これだけでイけるなんてびっくりだ。
 余程溜っていたのか、それとも余程これが好きなのか。
 どちらにせよ、この権高い男を思いの儘あしらえたことに満足感を覚える。
荒い息を吐きながら上気した顔をシーツに押しつけて絶頂の余韻に浸っているのをなおも追い上げようと中に入れた指を増やしてみる。
「いや…だ、クラウドっ、ああっ」
 今度は本気で逃げを打つ身体を押さえつけ、奥をまさぐりながら耳元に囁く。
「自分だけ悦い気持ちになろうなんて、都合良すぎるだろ?」
 ルーファウスはびくりと身を竦ませ、目を閉じておとなしくなる。
 その様子は、クラウドの言葉を聞いてというよりは何か遠い記憶を追っているように見えた。
 その意識を引き戻すように、閉じた瞼にキスを落とす。金色の睫毛が震えてクラウドの口唇を擽る。
 ルーファウスはシーツから顔を上げ、僅かに口を開いてキスをねだった。

 さんざん私の身体をいじり廻して焦らした挙句、ようやくクラウドは押し入ってきた。
 熱い塊が内臓を圧迫するその感触に身体が震える。
 乱暴に突き上げられて引き攣れる中の痛みと快感が、内側から私を支配する。 
 力の入らない腕で上体を支え、ともすれば崩れそうになる膝に力を込めて叩きつけられるようなその律動を受け止める。
 これを望んでいた。
 ずっと。
「いい…クラウド、もっと…!」
 惜しみなく声を上げ、より深い繋がりを、より激しい行為をとねだる。
 セフィロスにしたように。
 セフィロスではない名を呼びながら。

 「クラウド… クラウド!」

 熱にうかされるように呼ばれ続ける名は、確かにクラウドの欲情を煽る。
 この男を好きだと思ったことも、愛し合いたいと思ったこともなかったが、今だけはそれを返上しても良いかと思う。
 シーツを握りしめ背の窪みに汗を溜めて熱い息を吐く。その声も身体も、文句なく官能的だ。
 今にも崩れ落ちそうな腰をしっかりと掴んで、欲望を打ち付ける。
 食いつくような締め付けにくらくらする。
「ルーファウス」
 耳元に囁くと、驚いたように見開かれた目が上げられた。
 僅かに開いた唇が、無防備だ。
 顎を捉え、もっと仰向かせてぎりぎりのところで唇を重ねる。
 そのまま右手を彼のモノに滑らせてしごき上げる。
 ルーファウスは喉の奥で声を上げ、二人はほとんど同時にクライマックスへ駆け上がった。

 
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