100万回のKISS この4年間は、星が私に赦してくれた猶予期間だったのだと思う。 ウェポンの光弾が社長室めがけて飛来したとき、星は私を排除するつもりなのだと私は思った。 何がそこから私を救ったのか、ずっと疑問だった。 ――それは後から報告を受けた話だ。 星は、「人」のすべてをライフストリームへ還すことも出来た。そうしなかったのは星の判断なのだろうと―― では、その恩恵を受けた者のうちに、私は含まれていたのだ。 人の世界を恐慌から救うために、私にはすべきことがある。 それも星の判断のうちだったのだろうか。 それとも、その意志に紛れ込んだ誰かの願いだったのか。 あの時私は、死ぬのなら――ツォンの腕に抱かれて死にたかったと、そう思った。 そのつまらない感傷に、だが確かに何かが応えてくれたのだ。 そんな気がしている。 星が、そして星を巡るライフストリームがもっとも愛するのは、むしろそのような感傷なのかもしれない。 だとしたら私が私の使命だと思ってきたものは、ただ私が安らかな死を迎えるために必要な時間を埋めるだけのものだったのかもしれない。 人が成せることなど、本当にたかがしれているのだ。 私は結局、人の世界に対して何事か為し得たのだという想いが欲しかっただけだ。 そんな自己満足のためだけに生きてきたのだと思うのは、いっそ愉快だった。 その猶予期間がこの4年であり、その代償が日々の絶え間ない苦痛だった。 それは、私にもう充分だと納得させるに足る時間だった。 まるで人魚姫の寓話のように。 私は『世界』という王子に恋をした哀れなイキモノだった。 カンパニーという声を失い、生き続けること自体が痛みとの戦いだった日々。 そうまでしても世界が私を振り返るはずはなく、そんなことは最初から分かっていた。 ただ、諦めるための時間が必要だっただけだ。 ツォンの腕に抱かれて死にたいと。 それだけで充分だと。 その願いだけが私に残された唯一のものだと言い切れる時が訪れるまで。 ツォン。 おまえにはきっと、理不尽なことだと思う。 私の身勝手で、おまえを振り回した。 この4年間、おまえが私のためにどれだけ気を配り、心を痛めてきたか気づいていて、労う言葉さえ掛けたことがなかった。 私は相変わらず『世界という恋人』に夢中で、おまえには甘えっぱなしだった。 けれど、きっと私も気づいていた。 私の還る場所は、おまえの腕の中しかないこと。 おまえだけが、ずっと変わらず私を待ち続けてくれていること。 今になって初めて父の気持ちが理解できる。 母を失った時、父がどれほど絶望しどれほど孤独だったか。 父にとって母はこの星そのものであり、ライフストリームの赦しそのものだった。 私にとっておまえがそうであったように。 おまえに抱かれて死ぬことは、私には歓びだ。 けれどおまえにはそうじゃないだろう。 そのくらいの想像は、私にもつく。 おまえは悲しむだろうし、とり残されることは辛い。 ツォン―― 私がおまえに残せるものは、感謝だけだ。 おまえに会えて良かった。 おまえがいてくれて良かった。 神羅の裔として生まれカンパニーと共に生きてきた私は、この星にとって異物であり排除すべきものだった。 それでも。 おまえを愛していると――その気持ちだけは、ライフストリームも祝福してくれたのだ。 だからツォン。 私はおまえの幸せを祈っている。 最期の時まで。 喪失を越えてこそ得られるものもあると信じるから。 ありがとう。 ツォン。 おまえの腕の中は私にとってただ一つの約束の地だった。 end ビリビリクラッシュメン |