オレは一大決心をしてエースに囁く。
「エース、ベッドへ行こう。君さえいいなら…オレは、君が欲しい。オレ、初めてだし、上手くできるかどうかわかんないけど…」
情けなくも最後の方はもごもご口籠った。
でもエースは、オレを見つめて微笑んでくれた。
「うん、マキナ。二人でいいことしよう」
悪戯っぽい笑顔が、ほんとに奇麗だと思った。

いつもの通り、裸になってベッドに潜り込んだ。
抱き合ってキスして、擦りつけあって。
でも今日はそのままイくんじゃなくて、やることがある。
まずどうしようか?と考えてたら、エースが
「これ使って」
と小さなボトルを渡してくれた。
「なに?」
「ローション…」
ああ、そうか。そうだよな。当然必要だ。けど、なんでエースがそんなもん持ってるんだ? ていうか、どこで手に入れたんだ?
なんて考えたのはもちろん筒抜けで、
「もしマキナがしたいって言ったらいつでもできるようにと思って、あっちから持ってきたんだ。こっちで買うのはさすがにちょっと…」
と、焦ったようなエースの声。
焦ると饒舌になるのはよくわかった。
「エース、すごい。ありがとう」
まだ何か言いかけるエースの言葉を遮って、オレはエースを抱きしめた。

灯りを消して毛布に潜っているから、ほとんど真っ暗だ。
お互いの顔が見えない事を残念だと思う事もあったけど、誰かに踏み込まれる危険を考えたら仕方ない。
よこしまな目的が無くたって、いつかのナインみたいにいきなり飛び込んでくるやつもいるから。
なので初めての経験なのにちゃんと眼で見て確かめる事ができない。
その行為に関するオレの知識はあやふやでいい加減なものだったし、内心どきどきだ。
なんてことも当然エースはお見通しだ。
「マキナ、ここに…」
オレの手を取って、脚の間に差し入れた。
いつもさわってるエースのモノのそのもっと奥に、指を伸ばす。
窄まった部分に触ると、エースがびくっと身体を震わせた。
「エース…」
本当に大丈夫なんだろうか。さっきあんなことがあったばかりなのに。
「…そこに、ローション使って…指を入れて」
「うん」
不安になるオレを励ますように言ってくれるエースに、思わず大きく頷いていた。

「痛っ」

声を上げたのは二人共だ。
あんまり勢いよく頷いたんで、腕の中にあったエースの頭に思いきり顔をぶつけたのだ。
「マキナ。落ち着いて」
エースが顔を上げてオレを見る気配。
「ゆっくりでいいから」
ごめん、経験値低すぎて、と言いかけるオレを制して、
「その方が僕も楽だし」
言いながら口付けてくる。
エース、君ってほんとに優しい。
「大好きだ」
ぽろりと口からこぼれてた。何度言っても言い足りない。
「うん、僕も」
ためらいなく頷いてくれるエースを抱きしめて、もう一回仕切り直しだ。

ローションを手にとって、慎重に塗り込めていく。そしてゆっくり指を挿し入れた。
「ん…っ」
きつい。
こんな所に、本当にオレのなんかはいるんだろうか。
「もっ…と、奥まで…挿れて…マキナ」
エースの甘い声。
「奥まで…濡らしてくれれば、大丈夫だ。さっきやったばか」「エース」
オレはエースの口唇を塞ぐ。
「オレの事だけ見て」
「ああ…。そうだな」
ちょっといままでと口調が違う。
そうか。エースも緊張してるんだ。そう思ったら少しだけ気が楽になった。
「エース、挿れてもいいか?」
指を抜き、エースの脚を抱え上げる。
「うん」
エースの手が、いきなりオレのを掴んで、オレは息をのんだ。
「ここに…マキナ」
エースが導いてくれるまま、オレはエースの小さな入り口にオレ自身を押し当てた。
エースの中に入るんだと思ったら、緊張と感動で身体が震えた。
先端が入り込むと、エースの内側がまるでオレを誘うように引き込んだ。
「エース、エース!」
オレは一気に奥まで突っ込んで細い身体を抱きしめた。
「あっ…ああっ」
エースは身体をのけぞらせて声を上げる。
その声を聞いた途端、オレは頭が真っ白になった。
激しく腰を動かし、ただひたすら本能のままにエースをむさぼる事しかできない。

「マ、キナ、もう少し、ゆっくり…っ ああっ」

悲鳴のようなエースの声も、耳には入ってたけど頭には届いてなかったと思う。
あっという間にオレは達し、エースの中に放ってた。
射精の余韻が過ぎると、少し冷静さが戻ってきた。そして、さっきのエースの言葉がやっと意味を成した。
 
「ご、ごめん、エース」
オレの腕の中でぐったりしてるエースに謝る。
「…謝ることなんか無いよ、マキナ」
そう言ってエースはオレの頬を撫でてくれた。
「けど次はもう少しゆっくりやってくれ。君を…ちゃんと感じたい」
少しだけ笑いを含んだ声。
「エース…」
君ってほんとにいいヤツだ。
君を好きになって良かった。
君より素敵な恋人なんて、考えられない。心からそう思う。

「動いて良い?」
「うん」

今度こそオレは慎重に、エースの反応を見ながら動く。
エースはオレが身体を進めるたびに小さく息を吐いている。もしかして、痛いんだろうか。
「エース、痛いのか?」
「え? そうでもないけど」
びみょーな答えを軽く返されて、オレはいささか混乱した。
動きの止まったオレに、
「マキナ、そのまま続けて…。だんだん気持ちよくなるんだ」
「そ、そうなのか?」
「うん。だからもっと奥まで…」
「エース…!」

オレはエースの背を抱いて、ゆっくり動く。
そんなふうにするとさっきオレの放ったものがエースの中で音を立てるのさえ聞こえるような気がして、恥ずかしいような興奮するような、妙な気持ちになった。
エースの中は、熱くてきつくて、オレを全部包み込んで締め付けてくる。
それは、手でやるのとか口でするのとかとはまた全然違って、信じられないくらい気持ちよかった。
 
「んっ…あ」
エースの口から甘い声がもれた。今までとは違う。
「エース?」
「ん、そこ、マキナっ、そこが…いいっ」
エースがいいって言った辺りをもう一度強く突き上げてみると、もっと良い声が上がった。
「エース、感じてる?」
「うん、悦い…よ、すごく… マキナので、僕の中…いっぱいになってる」
またまた脳天を殴られたようなショック。
そんなこと、さらっと言ってくれちゃう君って、ほんとどういう人なんだ!?
君には何度も驚かされる。
いろんな顔がありすぎて、でもどれもみんなすごく魅力的で。
「オレもいい。すごく悦いよ、エース、大好きだ」
「僕も…あぁ…」
エースの返事は、甘い喘ぎになった。
エースのモノが堅く勃ち上がって、オレの腹に当たる。そっと握り込むと、また声が上がった。
オレは飛びそうになる理性を必死に繋ぎ止めながら、ゆっくりとエースの中を突き上げ、手の中のものを扱いた。

「あっ、は、あ、ああ…」
高い声を上げて、エースは身体を仰けぞらせる。
手の中のエースから放たれたものがオレの手を濡らし、エースの中がうねるように動いてオレを締め付けた。
それを感じながら、オレももう一回エースの中で達してた。

「マキナ…」
エースが顔を寄せてキスをせがむ。
繋がったままするキスは、胸が苦しくなるくらい甘くて切なかった。
それはたぶん、この恋の終わる日がそう遠くではないことを、二人とも知っていたからだ。


 
分かっていても、オレの目は捜してしまう。

薄暗いクリスタリウムの奥まった机で、なにか書き物をしている姿。
明るい噴水広場を、白金の髪を煌めかせて駆けていく姿。
チョコボ牧場の片隅で歌っている、裏庭のベンチで眠っている、その姿を。

「マキナ。元気ないね」
「レム…」
「エース君、今頃どうしてるかなあ」
「きっと忙しくしてる」
「たまには遊びに来てくれるといいね」
「ああ…そうだな」

別れの日、エースはオレにキスして、
「これ、ずっと渡し損ねてた」
と笑いながら小さな袋をくれた。
そこに入っていたのは、蒼龍の文字にちょっと似た、読めない文字が刻まれたストラップだった。
「シンラ、って読むんだ」
とエースは言った。
「ルーファウス神羅。僕の本当の名前だ」
「ルーファウス…」
「うん」
「綺麗な名前だ。君によく似合ってる」
「そうかな。でも僕はマキナにエースって呼ばれるのが大好きだったよ」
「エース…」
オレはエースを抱きしめて、その肩に顔を埋めた。
情けなくも涙が止まらなかった。
「またいつか、きっと会おう、マキナ」
エースはオレの背を宥めるように叩いて、そう言った。

そうして、エースは魔導院からいなくなった。
0組はしばらく気が抜けたようになっていた。物静かで自分からなにかを主張することはほとんどなかったのに、エースは名前の通り0組のリーダーだったんだと、みんな今更ながらに気づいたんだ。
オレはクラサメ教官から、密かに呼び出された。
エースのことについて、なにか知っているなら聞きたいと言われた。クラサメも気になっていたんだろう。
オレは異世界のこととかは伏せて、『エースは本当はどこかの偉い人の息子らしい。その仕事を手伝っていて、忙しくなったので帰ったようだ』とだけ伝えた。
クラサメは「そうか」と言ってオレをじっと見た。
オレはなんだかいろんな感情がこみ上げてきて泣きそうになったので、頭を下げて教官室を出た。

オレ一人になった寮の部屋には、すぐに新しい寮生が入った。0組への編入生だ。
そんなふうにして、月日は過ぎていった。

 
結局オレはレムと結婚した。
恋愛と結婚は別、の典型みたいなものだが、二人ともそれは納得尽くだった。
大体エースとじゃ、たとえずっと付き合っていたとしても結婚はできない。
レムも学生時代付き合ってた男と別れていて、二人で故郷へ帰って家庭を持つことは、落ち着くべき所に落ち着いた、という感じですんなり決まった。
レムはオレがエースを好きだったことも、付き合ってたことも、今でもずっと忘れられないことも全部承知で、それでも良いと言ってくれた。
「エース君を好きなマキナが好きなんだから、いいの。あのエース君が選んだ男だもん、いい男間違いなし、だよ」
なんて笑って。
元の世界でがんばってるんだろうエースに、恥ずかしくない生き方をしようと思った。
オレはオレで、ちゃんとがんばってるよ。
そういつでも言えるように。

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